ログイン―――8月8日。 それを見たのは偶然だった。 新しい学校で出来た友達と一緒に遊んでいた時、ハンバーガーチェーン店で涼んでいると、その友達のスマホに宛先不明のメールが一通届いた。 「なんだこれ?」 「詐欺メールだとヤバいぜ?開かない方いいんじゃね?」 「おいー、そう言う事早く言えよ、開いちまった…って、すげっ」 何が凄いんだろう? 「すげー美人だけど、え?なに、これ遊びのお誘い?」 「こんな可愛い子に誘われたら喜んで乗るわ」 「けど、良くやるよな~。自分からこういうの作るって凄くね?メアドとか載ってるし」 なんだろう…?うるさいな…。 眠い目を擦って、話の種であろうメールを覗き込み文章を読んだ瞬間、眠気が吹っ飛んだ。 「な、に、これ…」 思わずスマホを取り上げて、もう一度確かめる。いっそボクの見間違いであったならと、そう思ったから。 何度も目を擦り確かめた所で画像を見間違っている事など無く。その画像に写った女性は間違いなく、ボクの尊敬する先輩の写真で。しかも、AV女優の写真と合成されていて。添付された画像と一緒に彼女を装った卑猥な誘い文まであって…。―――ダンッ。怒りのあまり机を叩きつけた。 「海里?」 驚く友人達の制止の声など脳に届かない。 「あり得ないっ!なんだよ、これっ!」 鈴先輩は携帯を持っていない。だから、自分からこんなメール作る訳ない。 そもそも男が苦手な鈴先輩が自分の姿晒す訳ないじゃないかっ! その時、もう一人の友達の携帯も着信音を鳴らした。そいつも片手でスマホを操作し、驚き動きを止めた。 …まさかっ!? そいつの携帯を奪い取り、メールを確かめるとそこにはさっきみた同じメールがあった。 「うそ…」 嘘だろ?そんなに一斉にこのメールは回ってるのか? そんな…。このままじゃ、鈴先輩がっ! ボクは持っていた携帯を友人に放り投げ、店を飛び出した。 人混みを掻き分け、可能な限り急いで施設へと帰った。 飛び込む様に中へ入り、僕達三人の部屋へ駆け込む。襖を勢いよく開け過ぎて外れてしまったけど今は気にしない。気にしてられない。 「なんだ?どうした?海。今日クラスの連中と遊び行くって言ってなかったか?」 「それ所じゃないっ!陸っ、空っ、実はっ」 事のあらましを説明する。 すると二人もまたボクと同じように
火事騒ぎの翌日。 施設の皆は、私達が用意した新しい施設へと引っ越した……のは、いいんだけどねー…。 三学期は概ね平和だった。 あ、勿論、放火犯が誰だったかとかは全力で調査してたよ? でも情報操作をされているのか、あれだけの火事だったのに、テレビはおろか新聞のどの面にも載ってなかったんだ。 不自然過ぎる。 これはもっと捜査が必要だなって所で今は私個人でも調査を続けつつ、お兄ちゃん達の報告待ちって形で落ち着いた。だから、そこはいいんだ。そこはいいの。うん。 問題は…。『アンタの事、好きだ。大好きだぜ。美鈴センパイ』うぅぅ~…。 思い出しただけでも恥ずかしくなる。そして怖くもなる。 春休みに入った途端に、態々毎日の様に聖女に潜り込んできて、好きだと言っていく。 対外的には勉強を口実に来ているから無下にも出来ず。 優兎くんがいればストッパーになってくれるんだけど。こういう時だけ知恵が働いて皆がいない時を狙って告白してくるから質が悪い。 そもそも、どうして今告白してくるのー…? 告白イベントは今じゃなかった筈でしょー…。何かフラグ立ててたのかなぁ…。全然記憶にないんだけど…私。 本来なら高校生活の最後。卒業式の時に告白されて、ヒロインがOKならエンディングって流れのはずなのにー…。 なんで今なの…? 正直、今陸実くんの気持ちを受け入れれるだけの余裕は私にはない。 それでも私が進級して中学三年生になって、陸実くんも二年生に進級して、長期休暇も終わって尚且つ学校も遠くなったから、学校が始まってからはその告白ラッシュもなくなった。来る余裕がなくなったみたいで、私的には一先ずは安心出来るんだけどね。 あっという間に進級もして月日が過ぎていたけれど、その後も一学期に修学旅行やら文体祭――聖女の唯一のお祭りで体育祭と文化祭を姉妹校である聖マリア女子中学校と合同で行う祭りである――の準備やらで追われまくった為、時間は怒涛の勢いで過ぎて行って…。「もう三年最後の夏休みとか…早すぎない?」 電車の中、優兎くんと二人で並んで座っている。 「う~ん。まぁ、早いと言えば、早い、かなぁ?私としては「やっと」感が強いけど」 「なんか、ごめんね。優ちゃん」 優しいなぁ…優兎くん。でも、ごめんね。男なのに…。男らしくなりたいってあんなに言ってたのに女装させ
「そこ答え間違ってるよ」 「えっ!?どこだよっ!?」 「ここ」 そいつは赤ペンでオレのノートに間違った問題をどこでどう間違ったか丁寧に教えてくれる。 腹が立つ事に滅茶苦茶分かりやすい。 正直教科担任より分かりやすいかもしれないって言う…何かすっげームカつく。 「……聞いてる?」 じとーっと睨まれて、全く説明を聞いて居なかったオレは背中に冷汗を流しつつ静かに顔を背けた。 「聞いてなかったのね。ユメー」 「はーいっ」 「げっ!?」 やばいやばいっ! 夢姉が指を鳴らして近寄ってくるっ! 昔から夢姉が怒ると全く勝てる気がしない。って言うか勝てない。怒られそうになったオレが出来るのは逃走のみ。 急いで立ち上がり、逃走する。 「おっと、逃げるなよ、ガキんちょ」 ガシっと顔面掴まれて、逃走経路を塞がれる。夢姉の友達で向井円って女らしいけど、これがまた半端なく強い。 っていうか、怖い。 絶対ヤンキーだろコイツ。 「陸、素直に殴られておいた方が良いよ。眠気とぶし」 「……………」 「お前らっ!あっさり裏切ってんじゃねーよっ!!」 「………最近、勉強楽しい」 「ボクも。それに鈴先輩のお菓子食べれるなら、頑張れる」 「やっぱり裏切ってんじゃねーかっ!!」 夢姉とその友達から逃げ回っていると、突然横から腹に蹴りを入れられた。 「あ、ごめん。あまりにも煩いから。蹴飛ばしちゃった。…美鈴ちゃんにこれ以上手間かけさせるなら、もう一発今度は鳩尾に入れるわよ?」 「…すんませんした」 すごすごと机に戻り、問題集と向き合う。 ここは聖カサブランカ女学院の生徒会室。 白鳥美鈴がオレ達の施設に突撃して来たあの日から既に二週間が経過していた。 あの日。こいつはオレ達に新しい家を与えてくれると約束し、その時、条件を提示した。 二学期の中間テストで順位を100番アップ。 いや、無理だろ。素直にそう思ったものの、こいつは言った。 無理でもやれと。オレ達は最年長者なんだから。オレ達が母さん先生を支えなくてどうする。家族なんだろう、と。 こいつの言ってる事は正しい。 オレだって迷惑をかけたい訳じゃない。ちゃんと母さん先生を支えたい。 だからその条件に納得した。 納得したけど、もともと空っぽで働かない、この脳みそ。 自分で勉強してもさっぱり
「王子ー。こっちの決裁よろしくー」 「あ、王子。ついでにこっちも頼むわ」 「王子、ごめん…私、計算間違えたぁ」 「こちらの書類は終わりましたわ。次はどうなさいます?王子」 うふふー…。仕事が山積みで私死にそう…。 ユメのあの事件から一か月。 結局あの後どうなったかと言うと。まず、また虐めを再開させようとしたB組の連中は円からの盛大な反撃をされ鳴りを潜め、B組を担任していた教師は私が自ら権力を用いて首にした。表向きは転任と言う形をとったけどね。下手な恨みは買いたくないし。本当なら警察行きなくらいの問題なんだから感謝して欲しいわ。 ただ、転任先が花札学園だから、真っ当に扱って貰えるかは解らないけどね。双子のお兄ちゃん達は卒業してるだろうけど猪塚先輩と大親友の華菜ちゃんがいるから、何かしら情報を仕入れてそれなりの報復をしてくれるだろう。 それから一年生の話だけど神薙杏子がどうにか抑え込み頑張っていたようだけれど、一向に解決せずもう面倒になったので、生意気な連中は一発がつんとやれば大抵黙るので、私は思い切りガツンッと恐怖を植え付けてやった。今後は何もしてこないと思う。余程の馬鹿じゃない限り、ね。え?何をしたかって?内緒☆。 残るは綾小路菊だけど。それは桃に一任している。これに関しては綾小路家という家の問題も絡んでくるから下手に手を出すよりかはと傍観を決め込む事にした。不用意に手を出してトバッチリが飛ぶとかは出来るだけ避けたい。 まぁ、そんなこんなで何とか、平穏な日々が訪れた。ユメにも笑顔が戻って万々歳。 万々歳、なんだけど…。 「なんで、こんなに山積みに書類が溜まってるのかなー?」 「それは、生徒会の書類の話?それとも仕事の書類の話?」 「仕事の書類の話」 「あぁ、それなら美鈴ちゃんが悪いよ。ここ数日余裕があったのに、皆とお揃いのシュシュ作るんだってひたすら製作に明け暮れてるんだもの」 「うぅー…。正論だから何も言い返せない…」 優兎くんの言葉の刃が刺さる刺さる。 机に突っ伏して、ぐったりとしている私の姿を見て四人が楽し気に笑う。そんな皆の姿を見るととても幸せそうで私は大層満足である。 「だって、皆似合うでしょー。私の作ったシュシュー」 「うん。皆可愛いと思うよ」 でしょうっ!? 力作なんだからっ!! 皆各々好きな所につけてく
……沈黙。 と言うよりは、緊張状態と言った方が正しいのかな? 防具を付けて、美鈴ちゃんと円ちゃんが薙刀を手に対峙している。 今日は美鈴ちゃんが小学生の時から続けている薙刀の練習をすべく、放課後円ちゃんと一緒に剣道部の道場に来ていた。 昔は薙刀部があったらしいけど、今は部員がいなくなった所為でなくなってしまったそうだ。 因みに、愛奈ちゃんは締め切り、夢子ちゃんは補習、桃ちゃんは夢子ちゃんの付き添いで三人共いない。 膠着状態が続いてるなぁ…。 相手の隙を見る為、なんだろうけど…もう20分もこの状況だよ? 忍耐力がものを言うのかな? ……今まで姿勢正してたけど、流石に疲れたから道場の壁に背を預けた。すると…。 「やぁっ!!」 「―――ッ!!」 同時に動き出す。 円ちゃんの突きを躱した美鈴ちゃんが繰り出した一撃が面へと決まった。 勝負あり、かな? 二人は距離をとり、互いに簡略的な礼をして僕の方へ歩いてきた。 動かずにその場で待っていると、二人は僕の前に来て、すとんっと床に座りこんだ。 手早く面を外して床に面を置いたのを確認すると、僕は二人にタオルを渡す。 「ありがとう、優ちゃん」 「サンキュ。優」 「二人共凄い汗だね」 「そりゃそうだよ~。円ってばぜんっぜん隙がないんだもん」 「そりゃアタシのセリフだよ。踏み込むタイミングが全然つかめなかった」 二人は汗を拭いながら言う。けれど何だか楽しそうだ。 「円は本当に凄いね~。剣道やってたのは知ってたけど、薙刀なんて私が言わなければ触る事もなかったんでしょう?」 「そうだね。でもこれやってみたら結構面白いし。剣道と近いものがあるしね」 「あ、そっか。円ちゃん、剣道やってたんだっけ」 二人共会話するのは良いんだけど、水分補給もちゃんとしなきゃ…。 僕は保冷バックからペットボトルを二つ取り出して二人へ手渡す。 「そう言う優は?何もしてないのかい?」 「私?私は…」 特にやっている訳じゃない。訳じゃないけど…。 僕は記憶を呼び起こした。※※※あれは確か小学五年の時だった。 あの時もこうやって美鈴ちゃんが良子様と金山さんに薙刀を習っているのを見守っていた。 (相変わらず白鳥邸の三階って広いよね…。ダンスも踊れるようになってるんだから当然と言えば当然だけど…) 椅子に
…辛い…。まさか、こんなにも辛いなんて、思いもしなかった…。「…………い」家に帰ってもお帰りって可愛い笑顔が見れない。「……おい」部屋で勉強してたら、こっそりと覗いてくるあの可愛いほわほわが側にいない。「…おいっ」辛すぎるよ、鈴ちゃんっ!うぅぅ……。鈴ちゃんがいない毎日に泣きそう…。「おいっ!!」バシッ。頭が叩かれた。「…………痛いんだけど?」「こんだけ呼んでるのに気付かないお前が悪いっ」「呼んでくれと頼んだ覚えはないよ」「そりゃそうだ…。って違うわっ!」うるさいなぁ…。ゆっくりとノートから目を離し頭を上げると、そこにはクラスメートの姿があった。………誰くんだっけ?「おまっ!?その表情っ!!小学六年間、中学も三年一緒だった俺の名前、まだ覚えてないとか言わないよなっ!?」…………あぁ、そうだ。田辺だ。「何の用?田口くん」「田辺だってのっ!!」「あれ?そうだっけ?」「おま、おまっ…」「……おい。葵。そうやって田辺を苛めるな。あとが面倒なんだから」あーあ。揶揄ってたのがバレちゃった。って言うか、そもそも。「何の用だったの?」僕が本題に入ると、顔を覆って泣いたふりをしていた田辺がすちゃっと元の態勢に戻り、親指で自分の背後を指し示した。視線を送るとそこには顔を赤らめた女子が一人と、それの付き添いらしき女子が二人。「………はぁ」溜息しか出ない。以前、小学校にいた頃は、僕が鈴ちゃん以外には優しくないって事を知っている人の方が多かったからこんな風に呼び出ししてくる人間は少なかった。それが今じゃ呼び出し放題、言いたい放題。ほんっと溜息しか出ない。「……龍也。代わりに行ってきてよ」「馬鹿言うな。俺だって今呼び出しが終わって戻って来たばっかりだ。これでまた出て行ったら昼飯食いっぱぐれるだろうが」「うん。それでいいと思う」「良いからさっさと行って来いっ。女子の噂は怖いぞ。やつらに酷い対応をしてまわりにまわって美鈴の所まで噂が届いたらどうする」「…………それは、良くないね。分かった。行ってくる」立ち上がって教室の出入り口の方へと向かう。その背後で。「あいつそんなに妹が好きなのか…」「まぁ、仕方ないだろ。それだけ美鈴は良い女だしな」と聞こえてきた。とりあえず後で龍也は殴ろう。彼女達の前に立ち、僕は微笑